4.
4.
意識の分散、からの隙を狙ったわけではないだろうが、リヴァイは結果的にそれをやりとげた。急所に立てられた歯の感触と、突如として鼓膜を揺らした名前にハンジの注意が散らばった瞬間、閉じた肉のあわいに指を潜り込ませてきたのだ。
「っい、いきなり……!」
「……大して準備もいらねぇようだな」
自身の判断を証明するためか、わざと音が立つように動かされる。ハンジがその辱めに耐えていると、浅いところをかき回していた指が深みに進み、ギリギリまで引き、また進むという一連に興じ始めた。広くて硬い腹で、ぬるう、と膣壁をこそぎながらいなくなり、同じ一帯を押し込みながらやってきて、一番奥で泳ぐように動く。まごうことなき意地悪に、ハンジの腰は浮いたり沈んだりで媚びようとする。恨めしくて仕方がない。
「やだぁ…♡ するんなら、っ、はやくしてよ…♡」
「痛いのがお望みか。物好きだな」
揶揄いをまといながら、施しはどうあっても痛みなんて感じない速度と力に抑えられている。今夜のリヴァイはずっとそうだ。言葉と裏腹の行動をとり、その裏にさえ真意を隠す。何重にも煙に巻かれて、朝には結局、輪郭すらも記憶に残らないのではないか。
何も残らぬようにとキスを拒んだハンジに、そんなことを憂う資格はもちろんない。だったらいっそ。
「痛くても、いいから……っはやく……!」
早く、長く溺れたい。もっと触れられたかった、なんて思わないように。
「……あれだけ突っ込んでやったのに、懲りもせず迂闊なことばかり吐くなテメェの口は。よっぽど過去に躾けられたらしい」
「あっ、あ、ひっ…♡」
自分を躾けようなんてそれこそとんだ物好きだ、との反論は、音になることなく消えてしまう。深々と刺さったものとは別の手が陰核に触れて、ハンジの口を封じてしまった。
ピシ、ピシと指で弾くように刺激され、思わず声が出る。しばらく放っておかれたとはいえ、同じ夜に散々弄られて高められた場所だ。体は学んだことを反復するように綻んで、そうかと思うと、咥え込んでいたものをきゅうっと締めあげる。
入口から奥にかけて順に狭まるその動きは、根元から先端にかけて精を噴く雄のそれにピタリと沿ったもので、欲深い習性にハンジの頬が熱くなる。おまけに、中の指がさらに奥に進んで、膣の吸い上げに合わせてまた子宮口のまわりを刺激しはじめた。小さな尖りと腹の奥に、一本の快感の線を通すかのごとく。
「ぅ……く、ん」
「力抜け……〝こっち〟だけ気にしてろ」
「あっ♡」
剥き出しになった陰核を避けて、その周りをくるくると撫でまわされ、言われるまでもなく集中を強いられる。外から与えれた快感が中に伝わり、奥まった場所に溜まっていく。起伏もなく、乱暴もなく、一定のリズムと強さで刺激を繰り返されて、なのにハンジは加速度的に追い詰められた。
「っ♡ は、あっ♡~~っ♡」
カクン、と腰が持ち上がり、もう何度目かの小さな頂点にたどり着く。リヴァイがわざわざ「イッたな」と囁いた声で、これは手始めなのだと否が応でもわかってしまった。
「もう……いいから、いれてってば…♡」
「……一度、中でイけたらな」
「うそ……」
気道を塞がれていた時よりも圧倒的な苦痛に襲われる。やだ、と漏らすと涙がこぼれて、つるりと伝う液体を当たり前のように舐めとられた後、リヴァイはそれでも同じ責め苦をハンジに与えはじめた。
「あーっ♡ あ、は、ぁ゛♡」
一度、との宣言は早々に投げ捨てられて、二、三度と繰り返すうちに境目が曖昧になっていく。到達から転がり落ちる先も徐々に深まり、執拗に揺らされつづける箇所など発火を疑うほど熱を凝らせている。あれほどリヴァイを探していた視線は闇に漂って、そのたびに「しっかりしろ」と呼び戻される始末だ。
朦朧としながら、どうして、とハンジは思った。この装置の効果を見るだけなら、〝性交ができる状態か否か〟の基準以上にこの身をほぐす必要はないはずだ。だったら、リヴァイは、どうして。
何度目かの甘い収縮の後、荒らぐ息の合間から、ハンジは力なく、そして熟考もなく問うていた。
「いつも……こんなふうに、っ女を、抱くの……?」
「覚えてない」
嘘つき、と呻く。はぐらかすにしたって、もっとマシな言い訳があっただろうに。
「もしかして、わたしが、なれてないから……からかってる……?」
一拍の沈黙のあと、リヴァイが顔を近づける。久方ぶりに鋭い目に映されて、あからさまな接触よりも肌が粟立つ。
「お前のここが……どれだけ男を知っていようが」
「! あっ……」
ぬるりと、跡を残しながら指が抜けた。そうして空になった場所目がけて、すぐに固い熱が押し当てられる。厚い膜のようさえある愛液を、まぶすように擦りつけられて。
「こうしていた、……っ」
「く……、あ、ぁ」
「なぁ、……嫌でも、残るだろ」
まともに聞いていられなかった。陰唇を割り開いて、とてつもない質量が入り込んできたからだ。もうこれ以上はないと思うほど溶かされたのに、ハンジの穴は、すんなりとはリヴァイを受けいれない。それも承知の上なのか、ある程度まで進んだところで挿入は止まり、抜けてしまうギリギリまで身を引き、今度は少し奥まで進むという行程を繰り返した。拘束の中でも逃げようとするハンジの腰を、リヴァイの両手が、頭を抑えて阻止する。
「あ、ぁ……」
「痛いか?」
耳に口付けるようにべたりと唇を沿わされて、今まさに快感を得ている男の声が、ハンジの聴覚をも占領する。
「ぃ、たく、ない…♡」
「なら、一気に行く」
「へっ……あんっ♡♡」
半ばまで外に残っていた茎を、ずんっ、と全て埋め込まれて、ハンジの隙間が、リヴァイの一部でいっぱいになった。びっちりと嵌ったそれで息つく間もなく揺らされて、腹に灯っていた火に大量の薪をくべられた気分になる。
「っっ♡ は、ぅ♡ ぁ♡」
「どうした……念願のモノだぞ」
「あっっ♡ ゆさゆさ、やめてぇぇ…♡」
上昇の度合いがわからなくなっていく。気づけばイッていた、なんて過剰に押し上げられたまま戻って来れなくなりそうで、ハンジはほとんど定まらない眼で訴えた。リヴァイは願ったとおりに腰の律動をやめてくれた。ものの。
「ふぇ、は♡あ…♡っっ♡♡」
ぎっちりと奥まで満たした状態で今度は外側をいじり始めるのだから、つくづく意地悪だ。
髪を梳かし、耳をくすぐり、顎から首を揉むように撫でて、鎖骨から下は、音を立てて舐めしゃぶられた。胸は特に、乳首の周りを舌でくるくると囲われて、育っていく尖りには、揶揄うように息だけをかけられる。焦ったさを補おうとしてか、ぎゅううと膣が締まった。
「っとに、イイ反応しやがる……」
「ん、あ♡ あ…♡」
「オイ……呆けてるところ悪いが、一度出すぞ」
「っえ?」
出す? と反芻する脳を置いて、ほんの少しのあいだだけ鳴りを潜めていた蹂躙が、すぐにハンジの上に戻って来た。リヴァイが腰を引き、中を空白にしたと思ったら、惜しむ間もなく腰を打ち付けられた。
「ひぅっっ♡」
十分に濡れていたこともあって苦痛などは感じなかったが、息が止まるくらいには驚いた。空気を求めて、かは、と開く口を確かめた後、リヴァイは陰茎の抜き差しで中をかき回し始める。勢いに押し出された体液があちこちに飛び散り、リヴァイの領分を汚し、彼が肌をぶつける過程でまた、ハンジに返ってくる。ぐちゅん、ぐちゅんっと重たく繰り返される一連は次第に速さを増し、受け取るハンジは、ひたすら人形のように揺さぶられるだけになる。
「ふっ、……はぁ、っ」
「っっ♡ は♡ ぁあ゛♡ あ♡」
リヴァイが、自分の膣で陰茎をしごいている。汗を落として、息を乱している。与えられる感覚以上に、その事実がハンジの芯を轟かす。
「っ……中、ほぐれたな」
「ん♡♡ うっ?♡♡」
「つくづく、御せねぇ奴だ、お前は……」
ぐい、と首元に黒髪が埋まって、背中に腕を通された。汗濡れの感触や汚れを気にも留めていないらしいリヴァイに、拘束が痛みにならない程度に引き寄せられ、下腹から胴、胸、そして頭部で密着する。
甘ったるい錯覚だが、「ひとつになっている」などと思ってしまった。抽送はより深くを穿つ激しさになり、あちこちを締められて囚われているハンジは、もう素直に喘いで締め返すしかない。
そのうち、リヴァイが爛れた声で終わりを示した。
「ん゛、……でる、っ」
「あ…♡ うっ♡♡ まって、中はっ…♡♡」
「はッ……いやか」
ハンジは、咄嗟に「いやじゃない」と首を振っていた。それがどんな意味にとられるのかも考えず。今、肝要なのはそこじゃなかった。
「けど、っわたし……中に出されたこと、ないから、っ♡♡」
ふ、と顎に吐息がかかる。リヴァイが自分を見ている、と今夜一番確信して、ハンジはそれを見返す。
「君が、また、初めての人にな、ーーっっ♡♡♡」
最後までは言えなかった。もうわずかだったろう隙間を潰すように、ぐちゅん、と中に突き入れられて、衝撃に固まる顔を掴まれる。
「はー…っ、ここまで来ると、どうしようもねぇな……」
「いぅっ♡ あっ♡♡っ♡」
「なあオイ、誰のちんこ咥え込んでんだ?」
「んぇ、っえ?♡♡」
「誰のザーメンが欲しくて、この穴はこんなにうねってんだよ、なァ?」
とてつもない圧でもって、わけがわからないことを迫られて。下と上とで違う混乱に陥ったハンジは、恐ろしい追及を逃れようとするが、リヴァイがそれを許さない。手負いの獣じみた呼吸と牙が、首元で揺れる。
「ホラ、……言えよ」
「な♡ っなにを…?♡」
「今、誰がお前を抱いてるんだ?」
誰が。誰が、って。そんなの、見ればわかるじゃないか。なんでそんなことを聞くんだろう。脳の皺の一筋で、チリ、と理性が燃える。
名を呼ばないという決まりは、この夜と、いずれ来る朝のあいだに設けた堅固な壁のつもりだった。だけど。
(ハンジって、……よんだ)
自分が揺さぶる〝穴を持つ肉体〟を指して、「巨人のことべらべらと喋る」なんて特定して、「ハンジ」と、この名を呼んだ。誰がって、リヴァイが。
それはもう、この壁以外の全てが、ドロドロに溶けて混ざり合っている証左じゃないのだろうか。
リヴァイの声が聞こえる。ひどく爛れて、思考の隅々まで犯そうとする様相だ。
「なぁ、言わねぇと、このままナニもせず抜いて、朝まで、っ穴丸出しの格好で……放置だぞ」
「う、そ……やだ……!」
「なら言え、ホラ、できるだろ♡」
「あっ…♡ぁ♡ 」
「わかんねぇのか……? お前の中でイきたいって、ビクビクしてる…♡」
表面ばかりは哀れっぽさをまとって、その実、ハンジの女の器官を、限界まで舐め尽くすようなことをして。
「言えよ、っなぁ……〝ハンジ〟」
「……っ!!♡♡」
二度目の音は、ぐしゃり、と。体の奥底で、何か固いものを潰したようだった。破片を飛び散らせたそれは、亀裂のあいだからトロトロと新しい熱を漏らして、ハンジの胸を、喉を満たす。
「――り、っりばい、がっ♡♡」
気づけば、あられもなく叫んでいた。とうとう名を象った唇と舌が奇妙に痺れて、空気が糖分を含んだように甘くなる。
「りばい、が♡♡ なか、はいってる♡♡」
「俺のが、中で? っどうなってるんだ?♡」
「あんっ♡♡ あっ♡ すご、あつ……あばれ、てりゅ…っ♡♡」
装置の台に据えられ、蝶が翅を留められるように足を捕まえられて、ガバリと開いた合間に体を捩じ込んだ男から絶え間なく尖った性器を打ちつけられ、こねられ、燃やされ、えぐられて。
極めつけに、子種を注がれようとしている。結実はなくとも、リヴァイがハンジの体内に、その記憶を残そうとしている。そしてハンジは、それを望んでいる。
(ほしい、ほしい……!)
「だして……っ♡ りばい、なかにだし、てっ♡♡」
「ーーっ♡♡ ぐっ♡」
リヴァイの腕が、ほとんど骨を折るような強さで全身を締めた。同時に奥に入り込んだ先端が大きく膨らんだかと思うと、ドク、ドク、と拍動を響かせる。
「あ゛っ……♡♡」
くん、と喉が伸びて、背筋が弓なりに反れる。意識が白み、辺り一帯にちかちかと光が瞬く。リヴァイの射精に手を引かれた絶頂は、これまでと比べ物にならないくらい長かった。呼吸さえ忘れて溺れる意識を、トン、と奥を叩いてリヴァイが呼び戻す。
「ひ…♡♡ ぅ♡」
「オイ、まだ、トぶな……ッハンジ」
そう言いながら胸に額をこすりつける姿も、雲散してしまいそうな気力を必死に繋ぎとめているように見えて、この手が自由だったらきっと搔き抱いていたな、とおぼろにハンジは思う。噴き出してやまないものたちで肌が滑るのを嫌がってか、リヴァイが、脱げかけたシャツの下に噛みついた。皮膚こそ破りはしないものの、おそらくは跡が残るだろう強さで。
「ひ♡♡ や♡ぃった、ぁ♡♡」
痛みでようやく目が覚める。甘すぎる訴えを当然のように看過したリヴァイは、そのまま、今度はハンジの奥を――子宮の入口を攻め始めた。攻めるといっても、力任せに穿つような乱暴ではない。先端を緩やかに埋めたまま姿勢を保って、時折優しく揺さぶって、挿入前に与えていた曖昧な感覚を呼び戻すような、気長い攻めだ。だというのに。
「あーっ♡ まって、ま、って…♡」
ハンジの体はどうしてか、先ほどと違う受け取り方をする。とん、とん、と奥をつつかれ、そのたびにじわじわと我慢ならないくすぐったさが生まれて、それが深い痺れになっていく。腹の中どころか、もはや脳までかき回されている気分になる。
「そ……、んなふうに、されたら……ッ♡♡」
放心して泳ぐ顔を、熱い両手で包まれた。二つの静灰に閉じ込められて、ひどい幸福感の中、ゆっくりと上り詰めていく。
「これ、だめ……こわい♡ へんなふうに、イッちゃう、から……っ♡♡♡」
「ああまったく、カワイイ、穴だな、クソが……!」
「んんーっ♡っ♡っ♡ はぁっ♡……ぁ♡」
突然すべてが弾けるというような、断絶された終わり方ではなかった。レールの上を滑車が行くように、ひたすら快感の線上を引きずられて、いつのまにかそこに到達していた。全身が跳ねあがる衝撃とは違い、真っ白な空間で、上下もわからない浮遊を見る。
「はぁ、はー…♡ ふ、んん……♡♡」
体を伸ばし、隅々まで快感を染み渡らせて浸るハンジを、リヴァイは何も言わずに見つめていた。呼吸が落ち着いてからも、肌の表面に湯の膜が張ったような感覚が続く。ぼうっと漂う視界が鮮明になるにつれ、その大部分を占める存在が、くっきりと意識に入り込んでくる。
「……り、ばい……♡」
「ああ」
目元に、額に、鼻筋に、唇が触れる。ハンジのわずかな怯えを気取ってか、口元は上辺を掠めるだけ。急に、胸が絞られるような、痛みに似た切なさを感じる。名伏しがたいそれを伝えきれないうちに、馴染んでいた温度は二つに分かれなおしてしまった。
「んっ、……ふ、ぅ」
しばらくぶりに離れた下腹は、それはもうあらゆる体液に汚れていた。ハンジはまた水を漏らしていたらしい。くちゃりと粘着質な音を出しながらところどころ糸まで引いている感触に、わあ、と呆れた声が出る。
「ひっどい、な……」
「まったくだ」
リヴァイが台から降りて立ちあがった。床に散らばった衣服を拾っているらしい。室内は温い空気に満たされていたが、妙に寒い気がする。汗が冷えているのだろう。戻ってこれない、などと恐れていた天井も、今は遠い。ぼんやりと意識を浮かせながらも、ハンジは寂しげに尋ねていた。
「……ええと……これで、おわり……?」
「馬鹿言え」
「え……」
振り向いたリヴァイが、手にしていた服をまくって、内側でハンジの汚れを雑多に拭いあげた。床に放った時点ですり減るまで洗濯する未来は確定だっただろうが、そんな使い方をするとは夢に思わない。
ハンジが唖然とするあいだに、リヴァイが足元にしゃがみこみ、そこで何かを操作する。すぐにカチンと音が鳴り、ハンジの足首に当たっていた金属の感触がなくなった。長らくの拘束から解放されたのだ。
「ひゃっ」
「……傷になっちゃいねぇだろうな」
痛みの痕を探しているのか、固い指先が、敏感な足首を巡り這う。まだ痺れる隙間も相まって、ハンジはもじもじと足を擦り合わせた。
「だ、大丈夫だと思うけど……あの、手のほうも」
「そっちはまだだ」
「ん……?」
「腕、気をつけろよ」
気をつけろ? 要領を得ない注意の意味を、問い返そうとした瞬間。自由になったばかりの脚が抱えられ、輪になっていた下衣を完全に脱がされた。そうして、装置の上で、ぐりん、と体を反転させられる。
「おうわっ!」
今まで尻を置いていた座面に両膝が乗り、頭上で留められていた腕が交差する形で目の前にやってくる。大きな体勢の変化に、しかしハンジはすぐに嫌な予感を抱いた。裸の尻がリヴァイに向かって突き出される形になっていたのだ。
「え。え……まさか、っ」
「どっか掴まってろ」
無慈悲な声かけに身構えたのも一瞬のこと、リヴァイの片手が腰を掴んだかと思うと、詰めた息を吐き出す時にはもう、背後から固い肉茎を突き立てられていた。
「っっぁああ!♡♡」
「……っは!〝こっち〟はまた違った声が出るな……」
味わうような物言いに、羞恥を抱く余裕もなかった。声だけではない。リヴァイに割り開かれた場所も、先ほどまでとは違う感触に晒されていた。引っかかる部分も違えば、出し入れで刺激を受ける場所も違う。押し込まれた際の苦しみも、背筋をズンと突き抜けるもので。
「あ……っぁ……」
震える背姿も見ているだろうに、リヴァイは固定する片手を両手に変えて、容赦なく律動を開始した。肉と肉の鈍い衝突に、あっというまに液体の攪拌が加わり、グチュン、パチュン、と濁った音が響きだす。
「ぁっ♡ あっ♡ ん、く♡ うっ……♡」
「オイ、もっと突き出せ」
ぐ、と腰を抑えられ、背筋をそらすよう促される。望みどおりに尻を持ち上げてくねらせると、やや上から突き入れられたものの先端が腹側の一部を、ぐりゅん、と擦りながら入ってきた。
「! ひっん♡♡」
「……ああ、お前はここがイイんだったな」
そう、リヴァイの指で溶かされて、漏らすまでしてしまった場所だ。抉るような強い刺激はないものの、口に含んだ時に高く感じた亀頭の段差がいちいちそこを掠めながら行き来して、あっというまに快感が膨らんでいく。
「や、……っあ♡ ん゛っ♡ んぅ゛♡」
頭の中の恥を覚える箇所が、とろん、と外殻をなくして、気づけばハンジは、リヴァイの屹立に向かって自ら腰を振り立てていた。がむしゃらな動きでブレる尻に優しく手が添えられ、的確に一番気持ちがいいやり方に導かれる。緩やかに、けれど確実に、自分の速度で頂を登っていく。タン、タン、と前後させるたびに揺れる大きな肉を、背後の男は至極愉しそうに揉んでいる。
「はぁっ♡はっ♡ぁ♡」
「気持ちがいいか、ハンジ」
「っっ……!♡っん、うんっ♡ イイ♡ きもちいい…♡♡」
リヴァイの口から紡がれる名前は、もはや起爆剤だった。過たず小さく爆発したハンジが、ガクガクと全身を震わせながらも懸命に答えると、応じて締まる中をぐりゅんと陰茎で掻き回された。
「あ゛っっ♡」
「ちゃんと自分でイけたな……偉いぞ」
「ひゃ、ぁ♡ん…♡」
背後から甘ったるく頭を撫でられ、そのまま、肩、背中、と辿られる。脱ぐ機会を逸した寝巻きの上から浮き出た筋を何度かなぞった後、リヴァイはその手をハンジの前に回し、露わになった乳房に絡みつけた。
「っや…♡ そこ、は…♡」
ハンジの膝が乗って狭い座面に、さらに重たい体が乗り上げる気配。背後からのしかかった重みが、焼鏝のような温度と艶の錐のような声で、いや、と頭を振るハンジを刺した。
「一緒に弄ってやる」
もう片方の手も回ってきて、一緒に、の態勢が望みもしないのに整う。と同時に、密着した下半身が動き出した。角度を変えた亀頭がハンジのいい場所を深く抉り、ぶわりと熱が生まれる。
「やぁあっ♡ あ゛っ♡ これや、やら♡」
逃げようと身を捩らせると、硬い皮膚の指でピン、ピンと乳首を弾かれて咎められた。ハンジが身悶えれば身悶えるほど、リヴァイが据えた肉茎と指で自身を虐めることになり、動かなければ乳房を揉まれて腰を揺すられる。過分な気持ちよさにくらくらした。もはや自分が、達するまでのどこの地点にいるのかもわからない。
「あ゛っ♡……っ♡♡ ふ、ぅ♡♡」
「!……また漏らしたな」
リヴァイがどこか嬉しそうに言うのを、二重三重に布を巻いたような遠さで聞く。粗相を謝ることすらできない。
「は、……オイ、そろそろ俺もイかせろ」
リヴァイがぐっと肉薄して、ハンジのうなじに口を埋めた。汗で汚れたそこを舌で舐めて、軽く歯まで立ててくる。気を引くやり方なんていくらでもあるだろうに、自分たちにとっては一層特別な場所と行為に、ゾク、と肌が粟立つ。
「か、お……」
「……なんだ」
「かお……見ながら、イッて、ほしい…♡」
口に戸を建てる暇もなく、ポツリと呟く。その発言が、発した当のハンジに染み込む前に、視界がぐるりと回転した。
「っ……!?」
先ほどと同じように体を反転させられ、再び椅子に座らされる。唯一違うのは、自由になった脚がリヴァイの手によって胴体にひっつくほど折りたたまれたこと。そして。
「——っや、あ゛っっっ!!♡♡」
すっかり露わになった穴を目掛けて、ずんっ、と欲望が打ち込まれたことだ。正面に向き直ったリヴァイは、ハンジの脚を腕に引っ掛けたまま装置をつかむと、恐ろしく激しい勢いで腰をぶつけはじめた。
「っっっ♡♡ い゛っ♡ ぅ゛っっ♡ っっ゛♡♡」
「ふっ、っあ゛、ーーぐ、ぅ!」
尻を叩き潰すようなピストンに、獣じみた呼吸。気遣いをかなぐり捨てた力加減。ハンジを斬り殺すような眼光。肺を圧され、無理な姿勢でひたすら蹂躙を受けるだけになったハンジは、それでも、初めて見るリヴァイの姿に胸を高鳴らせる。
(すごい、すごい……私で、こんなに……)
汗が飛び散る。食い締めた口端から息が漏れ、一筋の涎さえ見える。瞳はずっと、ハンジを見ている。目に入る全てが、ハンジの女の部分を、リヴァイだけのものにしていく。
選択を与えるような、親切な宣言はなかった。
懸命にハンジを捉えていた眼が、ついにキツく閉じられる。
「ぐ、ぁ゛……っっ!」
ばちゅんっ、という音を盛大な立てて、リヴァイの雄が深々と突き刺さった。ハンジの穴がそれに応えて奥の奥で勢いを受け取ったのと同時に、覆い被さる体が大きく震える。触れた場所から、ぶる、と振動が伝わり、また、ドクドクと中で暴れる熱塊の感覚。
「……あ…♡」
「っ、ぉ゛……は、」
きっと、リヴァイに言えば「また訳わかんねぇことを」と困惑させてしまうだろうけれど。ハンジはその時、互いの心臓を擦り合わせているような心地になった。二つの脈動が重なり、溶け合って、ハンジの服薬がなければ新しい命にもなっていたのかもしれない。
(ああ……性交って、こういうこと、なのかな……)
まったき異常な状況にあって、奇妙に学びを得た気分になる。
「——ハンジ」
「あっ…♡」
ようやく苦しい体勢から解放されるのかと思いきや、ハンジが動けないのをこれ幸いとリヴァイが顔を近づけてくる。だめ、と言葉にしながら、吐息までは重ねて、ぶつかるように触れてくる唇をかろうじてかわす。気を逸らすために、ハンジは必死な調子で訴えかけた。
「り、ばい、重み、かけないで…!♡♡」
「ああ……出したもんが、中で気持ちよさそうに……泳いでるな」
「やだぁ、ばか…♡」
実際の感触は気持ち悪いばかりだったが、そんなことを言われると、腹に揺蕩うリヴァイの子種を想像して引きずられてしまう。ここまで馬鹿になっていながら、キスだけは拒むのが我ながら滑稽だった。
(だけど――)
その先に抱くのは、ハンジ個人の面倒な感情を起因にした、完全なるわがままだ。
「……んっ!」
訴えが叶ったのか、リヴァイが重たい体を起こし、ハンジの中からも抜けだした。寂しさを感じたのはほんの一瞬で、すぐに股を濡らすぬるつきが気になり始める。
「う、わぁ……」
悲惨な有様に呆れていると、今度こそリヴァイが適当な布を探して持ってきて、やはり当然のようにハンジの肌を清めはじめた。腕を使えるようにして自分でさせる、という選択肢はないらしい。ハンジも疲れていたのでされるがままになるが、それでも、気になって仕方ない部分があった。
「……リヴァイ」
「なんだ」
「あの……中、掻き出して、くれないかな……」
殺意を溜めた光で射抜かれ、失言だったかと背筋を冷やす。ハンジは慌てて言い訳を重ねた。
「だ、だって……! 腕も離してくれないし、君がいっぱい出したから、ぬるぬるして気持ち悪いし……そうだよ、そもそも君が出したんだから汚いとか」
「バカ。違う」
「んんっ」
間髪入れず、リヴァイの指が汚された穴に入りこんだ。今夜幾度も経験した侵入とはいえ、いきなりはいつも驚く。願ったとおりに掻き出す動きをしながら、リヴァイは腹に据えかねたように言った。
「てめぇ、まだ俺にこの穴を弄らせる気か? ちっとも反省してねぇようだな。……それとも、誘ってんのか」
「え、……っあ! ちがうよ!」
「なら、男を弄ぶのがシュミらしいな」
「んっ……人聞き悪いこと、言うなってばぁ……」
奥に触れた中指が、関節を曲げたまま浅くまで引く。と、追われた粘液の塊がこぷりと隙間から出ていき、ハンジの尻に温く伝った。ひどく生々しい感触と光景に、思わず互いに閉口する。
「……下も、上も。俺が初めて、奥まで汚した」
「いっ、いいから、わざわざそういうこと、言わなくて……」
「わざわざ言わねぇと忘れるだろうが、お前は」
咎めの色を帯びた口調に、怒ってくれるんだな、などと喜びを抱いてしまう。言われなくても、きっと死ぬまで覚えている。ハンジはそれでも、はぐらかすことを選んだ。
「どうかなぁ……なかなかないような、強烈な体験だったから、しばらくは覚えてると思うけど……っ、君があんなふうに女を抱くんだってことも、知っちゃったわけだし……」
後半は揶揄うつもりで言ったことだったが、語尾を潰されるように舌打ちが鳴る。
「オイ、勘違いするな」
「ん?」
「女を、じゃない」
ぽかんと呆けて見つめた顔が、まったく自然な動作で距離を詰めてきた。頬に唇が軽くあたり、ぶわ、と熱を上らせた肌に喜んでか、ますます同じものを擦り寄せる。ハンジの爪先だけが壁の上に立って、そのほかのすべてが宙に耐えていることを、リヴァイはよくよくわかっているようだった。
「……だめ」
ハンジが足掻いて拒む姿さえ、平静な表情で見下ろしている。
「何がだめなんだ?」
「いやだよ……こんな、普通じゃない状態で……」
選ばれるなんて、とは言えなかった。それを明かせば、「ハンジのほうは選んでいる」とすっかり伝えてしまうことになる。――おまけに、「普通の状態で選んでくれなきゃ嫌だ」と少女じみた願望までさらけ出してしまうことになるのだ。完全に、ハンジ個人の、頑是ないワガママだった。
「……」
リヴァイはしばらく黙った後、小さく息をつくと、ハンジの首から下に唇を滑らせた。
「いいだろう」
「っ、や、くすぐった……」
吐息で鎖骨を撫でて、胸の谷間に視線を下ろし、ちゅ、とキスを落す。性の熱を孕まない、ひとつのけじめのような温かい口づけだった。
「しょうがねぇから、……お前が納得するタイミングで、手を取らせてやる」
「……リヴァイ」
とんだ自信家だと笑いたくなったが、けっして過剰ではないのだ。リヴァイにこれほど言わせる自分の筒抜けっぷりを、ハンジは痛いほど自覚せざるをえなかった。気恥ずかしさや期待、申し訳なさ、そしてほんのわずかに不安の入り混じった感情が、じんわりと胸に満ちていく。
「せいぜい毎日股濡らして備えてるんだな」
「……ああ、うん。言いたいことはわかったよ……」
情緒のない台詞に一気に冷静になったところで、さてこの状況の後始末をどうするか、とようやくハンジは考えはじめた。夜明けまではまだ遠そうだし、雑にでも体を清めてこの部屋で適当に休んで、皆が起きだす早朝に清掃にかかるのが現実的だろうか。
つらつらと描いた大まかな計画は、しかし胸へのキスを続けるリヴァイによって遂行が怪しくなる。
「ん、ちょっと、りばい……?」
膨らみのあちこちを啄み、噛むそぶりをして、あっさりと反応した胸の頂上を舌で包み込む。明らかに〝そういうこと〟を先に見た接触だ。
「こっちは可愛がってやれなかったからな」
「せ、せめて腕、外して、……やっ♡」
下に埋まっていた指も息を吹き返して、中を綺麗にするという目的などかなぐり捨てた動きをし始める。閉じようとした両脚のあいだに素早く体を押し込まれて、意図を問うより先に、ハンジは気づいてしまった。
「!? ちょ、下……!」
生肌にこすり付けられる固い感触。顔、どころか全身が瞬時に熱くなる。
「ああ、勃った」
「げ、元気すぎない!?」
「これのせいだろう。なんせ強制セイコウ装置だからな」
くい、とハンジの背後を顎で示したリヴァイは、だからといってすぐに再開させるわけでもなく、窺うように顔を覗き込んできた。
「無理に付き合えとはいわねぇが……」
ぬらりと光る両眼に、わずかに早まった呼吸。リヴァイの、性交に備えた変化を――ハンジと交わることへの期待を目の当たりにして、選べる答えなんて。
一つしかない。
「っもう、しょうがないなぁ……♡♡」
合わさった影の向こうに、朝の足音が、少しだけ近づく。