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実験に協力する、という了承が状況に追いつくまでのあいだ、リヴァイの手はずっとハンジの体の上にあった。あちこちを撫でさすり、爪弾いて、意図的ではないだろうが思考を千々に乱してくる。
「ええと、っじゃあ……実験にあたって、前もって確認しておくことなんかはあるのかな」
「最後に男と寝たのは」
「……五年以上前」
訊かれるだろうとは思っていたが、覚悟があっても、日ごろ顔をつき合わせている人間に明かすには憚られる内容だ。
「経験人数は」
「ひ、一人……」
相手はリヴァイではない、と内心で唱える。どうかすると、全くの他人に知られるほうがマシだった。
「普段、自分で触るのか」
「あ、あんまり」
「あんまり」
「……月に、一回とか」
「濡れやすいのか?」
「わ、わかんない。いつも大体、外でイくし……」
「……」
まだ何もしていないのに、もう背中に汗をかきはじめていた。しかしこうして羅列してみると、ハンジの性的な欲求の淡白がありありと浮かび上がってくる。性行為を強いる、しかも内的な欲求を起こす形でという前提ならば、それなりに結果を得やすいサンプルなのかもしれない。――あるいは、リヴァイを釣るために抜擢されたか。
「……し、質問は終わり? ならチャッチャと始め、っ」
沈黙に耐えかねて口を開くや否や、上半身を苛んでいた手の片方が、ハンジの股のあいだにするりと落ちた。そうして、リヴァイの前にあられもなく広げられた谷間の真ん中をクッと押し込む。
「んん!」
指のたいらな部分で柔く揉むように撫でさすられ、ついでに、上部にある突起も引っかかれる。敏感な秘部への刺激に思わず腰を退こうとしたが、当然ながら拘束されて叶わない。ゆったりとした寝巻きの布は薄い生地のせいでハンジの女の部分にぴたりと被さり、その溝をありありと浮かび上がらせていた。
「ぅ、……ふ」
もう片方の手はいまだに胸を弄っていたが、ハンジが質問に答えている最中から動きが変わっていた。よりじっくりと、反応の仔細を窺うような丁寧さを帯びだしたのだ。
胸にわだかまる手が淫らに動けば、下は優しく、足のあいだで踊る手が大胆に動けば、上は大人しく。ハンジの意識が分散しないよう慎重に刺激を与えてくる。
どこで覚えたやり方なのだろう。あまり知りたくはない。
煩悶のうちに、ぷつり、ぷつりとボタンが外される気配があり、とうとう肌が空気に触れた。指先が衣服の下に潜り込み乳房をすくい上げる。ふわふわとそこらを揺らしたりくすぐったりしながら、尖って裏地に擦れる乳首はほったらかしだ。
ハンジは無意識に背もたれに後頭部を擦り付け、胸を前へと差し出すように上半身をくねらせていた。なのにリヴァイの手は願う箇所から離れて、逸らした首筋をゆっくりと撫で上げる。
腹が立ちそうになったが、楽しんでいるのかもしれない、と脳が沸いた。けして滑らかではないハンジの肌を、肉を、リヴァイは執拗に確かめている。燃やされ煽られる苦しさの裏に、等しく甘さが滴った。
「り、……」
名を呼びそうになり、ぐっと唇を噛む。『何も残さないように』というリヴァイの気遣いに応えるならば、装置に座る女がハンジであるということは、極力感じさせないようにするべきではないか。
そう考えて、喉すらも閉じるように俯いたのに、耳の下をくすぐっていた指はするりと唇に移って、まるでこじ開けようとでもするかのようにそこを弄りはじめた。薄い皮膚のあわいを、熱い指が往復する。
「んむ、ぅ」
「どうした。クソでも我慢してんのか」
「ちがっあぐ」
否定のために口を開いた途端、一番太い指に舌を押さえられる。目を白黒させているうちに、それは我が物顔で口腔内へと進み、かと思えば舌の上に腹をべったりと乗せたまま後に退き、また進み、その繰り返しでハンジの中と外とを行き来しはじめた。
「っぷ、ぁ」
リヴァイの指に阻まれて嚥下もままならず、口内に唾液が溜まっていく。やだな、と思った。普段のリヴァイは、ハンジが思いのままに動いてあちこち汚すのをひどく嫌うのだ。何も言わないままこれ見よがしにその汚れを排除してみせたりする。厭っているんだろうことは薄々感じていた。
とうとう溢れて指や口端に伝い出した体液を憂いていると、ちゅぽ、と間抜けな音を立てながら指が抜けた。さてどうするのだろうと意識でそれを追うハンジの目前で、すぐに、じゅる、と何かを吸うような音がする。
(……なめちゃったよ……)
今夜は一方的に受け入れるのだとばかり思っていたのに。リヴァイはあっさりとハンジのものを取り込んでしまった。彼にとって、女を抱くという横木の高さはそのくらいなのかもしれない。戸惑いなく相手の体液を口に含める、その程度。
きゅっと結びなおした唇は、残念ながらさらに溢れようとするものを止めるには遅かった。つるりと顎に漏れた唾液の軌跡を、戻ってきた指が執拗に辿る。
「っぁ」
ハンジの喉から声が転がり落ちた。いっときは大人しく〝下〟に置かれていた手が再び動きだしたのだ。陰唇の盛り上がりをふにふにと押し撫でられ、脚をビクつかせればあわいを塞ぐかたちで指を添えられ、ゆるゆると上下にさすられる。
「ん、ん……あっ、やっ、」
目も舌も唇もぎゅっと縮こませていたのに、リヴァイはお構いなしにまたハンジの口を割り開き、潜り込んだ場所をかきまわしはじめた。これでは駄々甘い空気が喉を鳴らすのを止められない。嫌だと思うのに、リヴァイの指は抗議も許さない。布の壁に阻まれる限界まで進み、退き、また進んで。抜き差しがだんだん強く、早くなっていく。
「っ……!」
長らく決まった相手がいなかったハンジでも、さすがにこの動きが示すことは察せられた。ご丁寧に上と下の入口で、指を使って、性行為の真似ごとをしているのだ。そのくせあからさまな性感帯にだけは触れることを避けられて、ハンジの体は生ぬるい空気や布の感触の中に懸命に大きな刺激を探してしまう。
さわってほしい。いじってほしい。思いきり。
「っねえ、」
「あ?」
「なんで、っさわんない、の……?」
どこを、とは言わなかったが、訊かれもしなかった。かわりに一呼吸置いた彼は「触ってほしいのか?」と小さく返してきて、ハンジもハンジで「言ってほしいのかな」と熱っぽい理解を通わせる。
これは強制性交装置の効果確認実験の任務。一個人の快感にどういう尺度が当てられて判断されるのかはわからないが、ハンジの肉体や精神の乱れ方も逐一報告されて、依頼者は自分が創り出したものの偉大さに笑うのだろう。
だけど、今この場にいるのは二人だけだ。リヴァイとハンジだけ。過去や未来で誰がニヤつこうが知ったこっちゃない。ましてや、ここに在るのは強制的に性交させる装置だ。紡ぐ言葉も、舌の動きも、肌の粟立ちも内臓の呻きも、この装置の上にある限りはハンジの正常な意思によるものではないのだ。だから。
「っうん、さわってほしい……強くしても、いいから…♡」
馬鹿みたいに爛れた台詞も、ハンジのものではない。なんにも恥ずかしくなんてない。
そう思った瞬間、頭の中で何か大きな錠が外れて、開いた隙間からどぷりと色づいた液体が噴き出す。
囁いたのと同時に、リヴァイがハンジの尻の下に手を差し入れて下衣を膝まで一気にずり上げた。布に阻まれ不自由ながらも、容赦ない強さが、固定された両脚を限界まで広げる。濡れて熱を集めていた場所が外気との差を感じる前に、けれど生暖かい風が触れた。
「ひゃっ、あっえ!? や、んっ♡♡」
信じられないことに、リヴァイがハンジの秘部に口付けていたのだ。子ども同士の可愛らしいキスなんてものではない、かぱりと大きく開いた唇で縦に走る隙間全体を覆われて、弱い中身を守るための入口を舌先でつつかれたかと思ったら、次の瞬間にはもうべろべろと蹂躙されはじめた。
いくらそういうことを行うためとはいえ、排泄を行う器官にごく近しい場所を潔癖のリヴァイに舐められるなんて予想もしていなかったハンジだったが、まるで「備えていなかったお前が悪い」とでも言うように口淫は激しさを増していく。充血して膨らんだ陰唇を食まれ、しゃぶられ、舌の腹でなんども押され、染み出していただろう愛液をごっそりこそがれる。
「や、やーっ!♡ まっ、てよぉ♡」
唾液を口に入れるどころではなかった。翻弄されているうちに、硬く尖った舌先が、やはりしこりのように身を固める陰核に届いた。
「!っあ、」
快感で、というよりは純粋な刺激で声が出てしまう。ちろちろとくすぐるように舐められはするものの、散々いじられた胸や、どうかすると口腔内よりも気持ちよさを拾うのが難しい。
神経を薄皮一枚隔てたところでなぶられているような、そういう恐ろしさを感じてしまう。リヴァイとの性交を了承してから初めて、ハンジは明確に身を竦ませた。
「、ぅ……」
「……よくねぇか」
「ん、ごめ……よく、わかんなくて」
問われた内容よりも、わざわざ動きを止めて問われたことが意外だった。相手の苦痛を無視して事を進めるような暴虐な男だなどと思っているわけではないが、こうして窺う様子を見せるのは珍しいように思う。というより、ハンジに対してそうするのが珍しいのだ。連携のために行動の理由や判断の根拠をあらためられることはあるが、そこに在る感情を質されることなんてなかった。だって、必要がなかったから。
(リヴァイって、こんなふうに女を抱くんだな)
その実感は、少し寂しい。
「……自分で触るわりに、慣れてねぇみてぇだな、ここは」
「う、ん……なんか、いつもと違、うっ」
ふっ、と優しく息を吹きかけられる。張りつめている一点を越えて茂みまで揺らしたそれに、置き去りにしていた羞恥がじわりと戻ってくる。
「ああでも、きっ、気にせず先に進んでも、」
ハンジが言い募るあいだも、リヴァイは陰核に指を這わせ、うっすらと表面だけを撫でるようにくるくると動かす。低い声が、ハンジの言葉を真似る。
「気にせず、先に、」
片手の指が円を描くかたわら、もう片方が軽く尻たぶを揉んで、それから真ん中の隙間に近づく。
「進まなくても……いいな?」
「あっ……」
見えずともわかった。扉を開きながら入り込んできて、ハンジの内側の粘膜に触れるもの——リヴァイの指だ。明らかな異物の感触に、思わず言葉を失う。
リヴァイに答えたとおり、ハンジは未通ではないが、熟練というほど慣れてもいない。自分の体のけして外側に出ることのない部分を他人に触れられているという感覚に、どうしても竦んでしまう。あれだけ熱くなっていた血も、すっと温度を下げたようだった。
「進まなくてもいいな?」などと聞いておいて、見た目よりも太さを備えた男の指はじわじわと侵入を深めてくる。ゆっくりと追い詰められていく心地に、肌の真下に漂っていた恐怖が染み出しそうになったところで、中指の第二関節まで飲ませた手が動きを止めた。そうしてくるりと指の腹を上に向け、内壁の天井部分を、一度だけ優しく押した。
「っ——!」
強い刺激だった。ビクン、と尻を浮かせたハンジに、リヴァイが気づかなかったはずはない。なのに、彼はさらにそこを弱く押し上げた。押し上げて、緩めて、手全体を動かして、ハンジのその異様な反応を長引かせようとする。
「ん、ん、…♡」
「痛く……は、ないな。中が膨らんできた」
「ん♡ っうん♡」
陰核を撫でる手と、その下あたりで中から押し上げる手とに挟まれて、標的にされたらしいハンジの中の浅い場所が、くるくる、ぐっぐっ、にちにちと可愛がられる。一定の動きで刺激を与えられ続け、熱と快感が生まれては広がる。優しい波及ではなかった。高いところから大量の砂を一気に落とした時のような、弾ける拡散だ。と同時に、何かが腹の中に溜まっていく感覚がある。快感だけでなく、物理的な何かが。
「り、……そこ、なんか、」
「嫌か?」
そこはダメ、とは言えない。ダメではないから。けれど、ダメではないせいでダメになりそうな予感がある。
「ううん、きもちぃ、んだけど、……っで、」
リヴァイが闇の中で顔を上げる。こちらを気づかう態度を見せつつ、手はしっかりとハンジをいじめつづけている。一旦止めて欲しくて、意を決して口を開く。
「でっ、でちゃいそうなんだ、尿道、刺激されると……!」
「それが目的だ」
「んっ、え!?」
「逆らうな。出せ」
逆らうな、はおそらく「リヴァイに対して」ではなく「自分の体に対して」なのだろうが、だったら素直に従えるかというと話は別だ。ハンジはさすがに首を振った。
「いやいやいや、汚しちゃうから!」
「小便じゃねぇから大丈夫だろ」
「大丈夫の範囲が広くないか!?」
尿でないにしても、他人の体液で汚れることに変わりはないのだが。尚も言い募ろうとするハンジを、リヴァイの低い声が遮る。
「気にならねぇか?」
「え? なに……、ぁっや♡」
「お前、ココをこんなふうに弄られて、溜まったもんを出したこともないんだろう。興味がないか?……こっから思いきり噴いたら、どうなるか」
「やだ、ゆび♡ 動かさなぃ、でぇ……んんっ♡」
さすがはリヴァイと言うべきか、ハンジの決意が傾くやり方を心得たものだった。タイミングも絶妙だ。怯えに撒かれていた先ほどならいざ知らず、相手が自分の施しにしっかり弱ったところでそんなことを言う。噴出と快感が連動していることなど、手に取るようにわかっているのだろう。実際手に取っているわけだけど。
「ここも剥けて勃起したな……ピン立ちしてる」
「うっ♡ あ♡ やっやだやだっ♡ なにっ♡♡」
結局、返事は必要なかったらしい。リヴァイは指を穴に食い込ませたまま、上部で震えていた陰核にまた頭を近づけ、かぶりつく勢いでそれを嬲りはじめた。
「! ンーッ♡♡♡ あっ!♡♡ はっ♡ だめだ、め…っ♡♡」
中をぐ、ぐ、と優しく突き上げていたリズムが、紳士的に、それでも確かに速さと強さを増していく。表面は表面で、顔を出して身悶える芽を、尖った舌先で扱かれる。痛みとも痺れともつかない何かに首を傾げていた数分前とは違う、圧倒的に違う、甘くて強い轟きがそこからひっきりなしに生まれて、ハンジの全身に飛び散り、また収束することをくり返す。
「あっやっ♡ む、むねまでぇっ♡♡ 」
リヴァイの空いた手が登ってきて胸を包んだ。高温の皮膚を持つ手のひらで、円を描くように乳房を揺すられ、中心に添えられた親指で乳首を擦られる。上下の神経の尖りを同時にこねられ、無我夢中で頭を振るが、腕と足の拘束が逃れることを許さない。
「やっ♡ っ♡♡ は、あっ♡ あっ♡ あ゛っ♡」
膣がぎゅううう、と狭まり、うねり、咥えこんだ指を奥へ引き込もうとする。リヴァイの指の関節まで型どる締め付けが恥ずかしくて、なのに気持ちが良くて、ハンジの中が、脳からとは別の命令で動いているのかと思うほど好き勝手にしゃぶる動きをする。
「ぃ、——んッッッ♡♡♡」
過たずして、腹がビクビクと波打った。短くて突然のことだった。最初は何が起こったかわからなかったハンジも、弛緩する全身と広がっていく心地よい倦怠感、そして動きを止めたリヴァイの指に、どうやら自分が達したらしいことを悟る。自分のそこが、上り詰めた後も尚、リヴァイの指を必死で求めていることも。
(キモチイイの、とまんないっ……♡♡)
「……もう少しか」
「うぇっ!? や、あっっ♡♡」
満たされない体を心得たかのように、リヴァイの熱が息を吹き返す。中からは腹側の一点。外からはピンと勃った一点。再び始まった刺激は規則的で、なのにハンジがどれだけ身をよじっても乱れない執心で。もはや責め苦だ。
「うぁあッッッ♡♡ あーっ♡♡」
ぐちゅぐちゅ、じゅるじゅると熟れすぎた果物を啜るような音に鼓膜すらも犯され、ハンジの膀胱に溜まるそれが、破裂寸前になる。
(あっダメダメダメ♡♡ イく、イく…っ♡♡」
どこで思考から声に変わったのだろう、叫びが室内に反響して、ハンジ自身に戻ってくる。切実な降伏宣言を受けてかリヴァイもダメ押しとばかりに動きを早める。かき混ぜられ弄られまくった性感帯がきゅうう、と一際キツく鳴いて。
一瞬、体に与えられていた全ての動きが止まった。限界まで強ばったハンジの筋肉が、その空白に驚き、弛緩した瞬間。
「ぃぅ゛、〜〜っっ♡♡♡」
ねっとりと膣壁を抉られ、切羽詰まって痛みすら訴えていた下腹部が、ついに根をあげた。溜まりに溜まった熱が解放にたどりつき、ハンジの胎の中に、ぷしっ、と派手な衝撃を響かせる。けれど空気を揺らす音にならなかったせいか、リヴァイは確実を追ってさらに指を動かす。負荷を受けた筋肉が不随意に痙攣して、ハンジの下腹は、ハンジの意思から完全に脱してしまった。ぐしっ、ぷしゃっ、と聞いたこともない騒音を立てながら何度も何度も水を噴き、そのたびに脳天が奇妙な悦楽に染まっていく。この身も心も、どこまでも自由だ、という悦楽に。
「っ…♡♡ は…♡♡ ん、や…♡♡」
「派手に飛ばしたな」
「ぁぁあっ♡♡」
ぬる、と指が抜けた。ハンジにとんでもない痴態を強いた犯人を恋しがってか、中がきゅうきゅうと空洞を締める。下腹全体に切なくてどうしようもない感覚が広がり、染み込み、ジンジンとした疼きに変わっていく。それはすぐに飢えになり、ハンジの全身に能動的な希求をばらまいた。
「大丈夫か?」
「う、ん……」
薄ぼんやりと聞こえてきたリヴァイの声には、滑らかな布を何枚も重ねたような優しさがあった。さらにその優しさを体現するかのように、兵士としての指が、放心するハンジの眼鏡の位置を律儀に直し、前髪をさらりとよける。
「どうだ、存分に噴いた感想は」
「ん……すご、ヨか、ったぁ…♡」
「……そうか」
控えめながら満足げな声。そして、つ、と頬に軌跡を残して離れていった温度に、ハンジの理性の壁は、あっけなく崩れていた。
「ねえ……もう、いいから……いれても」
甘く媚びきった声が綴る言葉を、どこか遠くで聞く。
「もともと、コレの効果を確かめるため、なんだし……」
一般的な前戯にかける手間や時間として、リヴァイが施したものがどれほどなのかはわからない。それでもわからないなりに、こうしてハンジばかりが快楽を得ている状況は正しく〝性交〟とは言えないのではないか、などと思っていた。疼く中に追い立てられて、そんな見え透いた言い訳を重ねていく。
「ね……? だから、いれて……」
「まだだ」
しかしそんな健気な願いは、あっさりと斬り捨てられてしまった。当然速やかにまぐわうのだと思っていたハンジはその両断に拍子抜けする。
「え、じゃあ、これでおわり……?」
慣れない女の惑いを尻目に、当の刃を振るったリヴァイは知らん顔で身を翻らせ、——再び、ハンジのなかに指を潜らせた。
「っはう!?」
二度目の侵入は、それまで一番深くだと思っていた場所のさらに奥へと到達した。手のひらがくるりと天井を向き、指が限界まで伸びきった先のとある場所。
「んや……な、にっ?」
「……ここは手付かずか」
触れられた瞬間は、正直何も感じなかった。そこは周りを包む壁ほど柔らかくはないらしく、とん、と軽くタップされた反響でようやく感触を知れる程度。リヴァイも無理に指を埋めたりはせず、薬を塗るようにさわさわとなぞり、触れたまま手を揺らしたりする。伝わる振動にもなんら快感はないものの、脳を宙に放り投げられるような、奇妙な感覚を少しずつ拾う。
首を起こし、腹を見下ろす。この狭い洞の行き止まりで、手のひらが恥骨に触れるほど埋まった指は何をしているのか。ハンジの疑問に答えるようにリヴァイが囁いた。
「わかるだろう。――ガキの出口だ」
つまり、子宮口だろうか。
「そ、んなところ、も、触るの……?」
怯んで問い返すと、肯定の意味なのか吐息だけが返ってくる。他人の内臓に触れている自覚からか動きは始終優しいが、だったらなぜそんなところに執着するのだろう、とも思う。ハンジの体は少しの浮遊感をじわじわと感じているだけで、特段、頂上へと駆け登るわけでもない。
「ここは訓練次第で使いようがある」
「訓練……」
まるで新兵でも育てるような物言いだ。ふふ、と笑みを漏らすハンジに、心なしかリヴァイの気配も柔くなる。
「……もう一度イッとくか」
「え」
穏やかな時間は終了した。ハンジが「頼むよ」とも言っていないのに、リヴァイはようやく熱が落ち着き始めていた陰核に親指をあてて、腹で丁寧に潰しなおすように捏ねくりだした。短い時間に何度も強烈な責め苦を受けたそこは、明らかに頂上への近道を走るようになっていて、ハンジはあっというまに視界を白一色にする。
「あっ♡ぁ♡っ♡だめ…♡」
ものの数十秒で、きゅう、と快感の源が引き絞られ、染み出した酸味が全身に行き渡る。溜まって弾けて噴いてしまった先刻のような大きな角度はなかったものの、リヴァイがずっと指を離さなかった子宮口から膣口にかけてが心地よい温かさに浸かっていた。あまりにも良くて、ハンジはしばらく、リヴァイを含めた空間全体をぼうっと見つめていた。
視線に気づいた目が、きちんとハンジに向き直り、熱い手を伸ばして頬を撫でる。「この男のあらゆる器官は、良いものしか施さない」――体はもう、頭からそう思い込んでしまっていて、触れられるたびに歓喜を歌うようだった。
(わたしも……そうなりたい、な……)
彼にとって。彼の体にとって。
ごくごく小さなその衝動は、〝目の前の男がリヴァイでなくともそう思っていたか〟なんて過程に立つには、あまりにも理性から遠い位置で生まれたものだった。だから、すぐにすくすくと育って、ハンジの口から飛び出す。
「……わたし、も、したい」
ぴた、とリヴァイの動きが止まる。肺の機能が停止したかのように、呼吸も聞こえない。その反応の意味を精査する前に、ハンジの目尻から涙がこぼれた。この身が切なくてたまらない。
「わたしにも、させて…♡」
返事はない。けれど、リヴァイの意識は余すことなくハンジを刺している。
「おねがい、口で、させて…♡ わたしのことも、よく、してくれたんだから……ね?♡いいでしょ…?♡」
何度も鼻をすすりあげ、息もたえだえに望む。
「ちゃんと、 君が、気に入るように……キレイにするから…♡」
冷静なつもりだった。暗黙のうちに了解した『匿名』の守りすらもボロボロと崩れかかっていることに、ハンジは気づいていなかった。そうして、「ハッ」と小さく放るように息を吐いたリヴァイも。
「んっとに、しょうがねぇ奴だなお前は……」
決定的に露わになっていく何かから、目を逸らそうとはしなかった。