2.
2.
「くっ……! ふっ……」
「声出せよ、オラ」
「ん゛ん゛んっ……!」
腹の裏側に指を押し付け数回揺らすと、女は目を瞑って身悶えた。上がった声はなかなか良いもので、女の箍がいよいよ外れればさぞ高く啼くのだろうと思わせる代物だった。
室内の空気は、随分とその色を変えていた。
当初の慎ましさはどこに行ったのやら、女のそこは異様な溶け方で俺の指にしゃぶりつくザマだった。
濡れにくければ薬を使うことも考えたが、どうやら必要なさそうだ。
女自身がその変わりようを受け入れられないらしく、下がぐちゃぐちゃと滑りのある液体を吐き出している今も、上では必死に拒絶の表情をつくっている。
もっとも、涙と涎まみれの顔ではあまり説得力もないが。
女とは面倒な生き物だと思いながらも、こちらとしてはその意地が強ければ強いほど良かった。堕ちる時の穴が深いからだ。
俺の指は太く節くれ立っていて、立体機動装置の扱いが上手い代わりにあちこちに肉刺をこさえている。女に優しい柔さと細さなど到底持ち合わせていないのだ。唾液で濡らしたところでそう易々と抜き差しできるようになるとも思っていなかったが、女の肉が予想の上をいく淫蕩っぷりだったから驚きだ。
皮を剥いて現れた大きなクリトリスを嫌がるのも無視して散々なぶってやれば、隙間はあっという間に濡れはじめて差し込んだ指が溺れるほどになった。
呼吸が苦しいせいもあるのか中はキツかったが、それだって快楽を増長させる原因の一つになっている。突き入れれば熱くて柔らかな壁が圧殺もかくやと締め上げてくるし、ゆっくりと抜けば涙ながらに必死で追いすがってくる。
血を溜めた入り口はぷくりと膨れ上がり、足の間でそこだけが真っ赤に色を変え、中の嵐を示すようにひくついていた。
こんな体勢でなければむしゃぶりついてもいいくらいの熟れ具合だ。
「おい。こうやって掻き回されるのと抜き差しされんのとじゃ、どっちがイイんだ?」
「……っぐ、うっ……!」
「言えねえのか? それとも、どっちもイイか」
優しく撫で、揺らし、わざと音を響かせ、指を開き糸が引くのを見せつけ、両の親指で割り開いた中を観察し、様子を仔細口に出し、尻の穴の皺すら弄り、まあとにかく、俺は女を辱めるために色々やった。
あんなに強かった女の目がだんだん霞んでいくのを、これ以上ないほど愉快な気持ちで見下ろしていた。
中に指を埋めたまま、血を貯めて膨らんだクリトリスを捏ねまわし、また戯れに弾く。物足りなさにだろうか、女の腹はうねってそれに応え、こちらはさらに指でお返しをする。女は苦しげに呻き涙を流す。
一連の流れに、俺は嗤う。
同じことの繰り返しに見えるが、締め付けは徐々に切実さを増していっていた。達してしまわないように、と俺が払う細心の注意を女もとっくに察していただろう。震えがいっそう大きくなったところで指を引き抜き、代わりに分厚い布の下で形を変えているはずの胸の頂点を抓ると、女はかぶりを振って苦しんだ。苦しいからといって先を乞うこともできず、こうして唇を噛んで耐え忍んでいるのが哀れだ。
そう、哀れな女、だ。
「女ってのはしょうのねえ生き物だなぁ。ああ、お前個人を貶しているわけじゃねえが……。いくら自分じゃ止まりたいと思ってても、男よりも深く、随分イイ所までイッちまうんだからな。戻ってこれねえ奴もいるくらいだ」
「あっ……、あ、う」
「分隊長さんよ、もうそろそろイキてえんじゃねえのか」
掻き回す指の動きを止めると、しばらくぶりに女と目が合う。
「イキたいか?」
「……」
不自由な身で腰だけを揺らめかせるほど弱りきった己の理性に、女はどれだけ気付いているのだろう。
「外じゃ今もお前の仲間たちが必死こいて闘ってるんだろうな。そろそろ討ち取られた頃合いかもしれんが」
「……!」
止めていた指を再び動かす。ただし、今度は激しく、女が弄られたくない箇所を重点的に、上り詰める強さで。
「! あっやっだめだめだめっ‼」
突然感覚が走り出した体に、女はがむしゃらに首を振って抵抗した。が、どうしようもないのはお互いわかっていた。
「捕まったとき一緒にいたって男は部下か? 身を挺して逃がしたらしいじゃねえか。自分の代わりに捕まった隊長がこんなに気持ちよくなってるなんざ、思いもしねえだろうなぁ」
「い、や……ぁっ‼ っ!」
水面を叩くような音が響く中、女が登り坂の最後にたどり着く。
「……イッちまえ!」
「ーーっ……ん──っ!」
喉をそらし息を詰まらせる女の無言が、ぷしっ、という水が噴き出す音で覆われた。それは女の体に降り注ぎ、ぐっしょりとそこらを汚していく。
愉快な光景だった。気づけば思っていた以上に時間が経っていたが、どうせ今与えられた仕事はこれだけだ。構いやしない。
気を良くしたまま、役目を終えた指をもう一度ゆるりと動かす。
「や……やめ、て……ぃ、」
絶頂の余韻に震える女の体内は、ちょっと経験したことのない蠢きで俺の指を締め上げている。ここに指じゃないものを入れたとして、得られるであろう快感は想像もつかない。
女越しに背もたれを掴み、倒れていた椅子を起こす。見れば「よくも暴挙に耐えた」と言えるほどボロい椅子だ。
今からのことに耐えられるかと一瞬だけ思案するが、実際はどうでもいいことだった。
起き上がった女は、呼吸を整えるためにぐったりと体を弛緩させていた。そのあいだに中途半端に脱がせていた下衣を取り去る。改めて見ても乗るべきところに肉と筋が乗ったそそる脚だが、ブーツと腰布で大半が隠れるとはいえ、あのピタリとした兵服でどうして性別がわからない事態になるのか。
「……え……?」
女が違和感に顔を上げたタイミングで、俺はもうずっと窮屈さを感じていた場所を寛げ、硬く勃ち上がったものを取り出した。泥のような快感に沈んでいた女がはっ、と目を見開く。
「や、だ……なに……?」
「ナニもクソも……もう忘れたのか」
女の体液が滴る手で見せつけるように扱くと、ようやく『よがり狂え』という言葉を思い出したらしい女が青ざめた。
「ちょっ……うそだろ、やめろよ……!」
「お前が腹に溜め込んでる秘密を全部ぶちまければ……いや、ダメだな。もう遅い」
暴れたところで大して力のない脚を両肩に抱え上げると、女の体は座面の上で不恰好にずり下がった。俺は膝を少し曲げながら、のしかかるようにして濡れた女のソコに入っていく。
「……あ、ああ、ゃ、……」
「ッ……!」
想像もつかない、などと言いながら想像していた女の中は、正直危険を感じるほどのものだった。
入れただけで膝が笑い、目が熱くなり、睾丸が射精の直前のように硬くなる。腰が溶ける、という言い方をする男がいたが、一瞬本当に体が形をなくすような感覚を味わう。
さっきまで弄りまわしていたのはこちらなのに、俺の弱いところはさっさと暴かれ、可愛がられるように舐めまわされる。なんつーもんを持ってんだ、と毒づきたくなったが仕方がないだろう。
全身に力を入れて暴力のような快感をやり過ごしたところで、俺は間近に迫った女の顔を覗き込んだ。
女は、また泣いていた。
目を見開き、細かく震える顎がカチカチと歯を鳴らし、口の端からよだれを垂らし、俺が潜り込んだ部分を凝視していた。
あと少しだ。あと少しで堕ちる。
確信し、腰を動かし始める。
「ん、だめっ、動く、な……!」
「……はっ! 兵舎で娼婦の真似事でもしてたのか? 随分……っ、具合がいいじゃねえか」
「ーーっ! いっ、や、っ!」
相性がイイという予想は、果たして当たっていた。
中に全てが納まった頃には自然と息が上がり、奥を押し上げられた女は激しく身悶える。緩慢に引き抜けばその道中でいちいち快感を拾い合い、気がつけばがむしゃらに腰を降り出していた。
こちらが感じる苦痛なほどの好さを女もまた感じているようで、抱え上げた脚は何度も俺を引き寄せ、必死に離すまいと絡みついてくる。おそらく無意識だろう。女の啼き声も期待していたとおり耳が犯される甘さで、正直に言うと、俺は腰を動かすあいだ自分の職務のことをすっかり忘れていた。
「だめだめだめっまた……!」
「またイクのか? しょうがねえ、奴だな……っ」
「ひっ……あ゛っーー……!」
跳ね上がる全身を抑え込み、さらに女の都合など知ったことかと中を打ち据える。女はよがり声を上げ続けた。
「ぁああぁ! な、や……!」
「ほら……もう一度だ」
「ひうっ……!」
水が噴き出す。出る動きに合わせるように腰を動かし、休む暇を与えない。俺の終わりも願っていたより早く来る。
身体中に電流が走ったような感覚のあと、俺は女の体を椅子に抑え込んだ。
動きが変わったのに気付いたのか、腕の中で突き上げられるだけの女から僅かに困惑が伝わってくる。ぶつかるような勢いで腰を動かし、きれぎれの息の間に女の耳元でついでのように宣言する。
「俺もイくぞ」
「ぇ……あっ? まっ、」
「っく……!」
女が身じろいだ瞬間、限界まで張り詰めていたものはあっけなく弾けた。女の体の奥に入口をぴたりとくっつけた先端が、はくはくと欲を吐き出していく。興奮が過ぎた体はなかなか射精をやめず、俺は何度も腰を震わせなければならなかった。
女の反撃に備えて頭の一部には冷たさを強いていたが、あがりきった体温に容易く侵されそうになる。それほどのものだった。
ほんの数分だけ快感の余韻に浸り顔を起こした俺に、女が小さく問いかける。
「え……中に、出し……」
「あ?……ああ」
答えた瞬間、女の目の端に涙が盛り上がり、先に流れていたもののあとを追った。それを見ても思うのは、呆然とした表情に上気して汗ばんだ肌がよく似合っているとか、そういうことだ。
「俺が『イく』っつったら、お前の中、一層しゃぶりついてきたぞ」
「……うそだ……」
「嘘じゃねえよ。千切れるかと……おい、暴れんな」
最後まで汚された体に逆に怒りを注がれたのか、女が体をよじりはじめた。が、下はまだ繋がったままで、おまけにちょっとないくらい馬の合う体同士だ。
当たり前のように、俺のソコは息を吹き返す。
「ひ、やだ……! なんで……んっ」
「玉が空になるまで出してやる。せいぜい正気のうちに言いたいこと言っとけ」
室内に再び、どろりと濃い空気が満ち始める。
この欲がいつ終わるのか俺にも皆目見当がつかなかった。