Love is “Good Night”.
おやすみを言いたかった二人の話
Love is “Good Night”.
おやすみを言いたかった二人の話
1.
深夜から対応していた案件がひと段落を見せた、正午前のことだった。
「お前……それは異常だよ」
「ぁあ?」
もう五年も相棒の席を任せている男に未知の生物を見る目でそう言われ、リヴァイの機嫌は紅茶の温度と共に下降をはじめた。
「どうりで夜中に電話してもレスポンスが速いわけだ。昨日もすぐ出たよな。そうだ、コンマ二秒で出た」
「出てねえ」
「エドだかエルドラドだか、お前のカウンセラーは? それについてなんて言ってるんだ?」
「エルドだ。そもそも伝えてない」
「何でだよ!」
淡々と返したつもりだったが、面倒臭いと思う態度が滲み出てしまったらしい。相棒は血相を変えてデスクから身を乗り出した。
「あのな、お前のそれは眠りが浅いなんて話じゃないぞ。『不眠症』っていう立派な病気だ」
そうは言っても、だ。
思春期を過ぎる頃には既に、リヴァイの体は“深く眠る”ということを(ついでに言うと“身長を伸ばす”ということも)忘れてしまっていた。
今さらどうこうできるものだと思ってもいないリヴァイは、三十半ばを目前にした現在もレムとノンレムの波を遠目に相変わらず凪いだ夜を過ごしている。
猫の額の方がまだ足を伸ばせそうな広さの自室で、唯一の高級品である北欧生まれの一人用ソファに腰掛け、すぐそばのミニテーブルにはスマートフォンを置き、特に何ドルの価値もなさそうな夜景を見ながら腕を組む。
それがリヴァイの夜の姿勢だ。
目は、完全には閉じない。
ゆっくり、ゆっくりと瞬きをしていると、そのうち水に潜ったように周囲の音がぼやける時が来て、リヴァイは暗い水底に停留したまま静かに呼吸を繰り返す。
平均して二、三時間。
手元に白い光が差し込んできたら、それが水から上がるタイミングだった。
リヴァイの夜の過ごし方を聞いた相棒は、ますます太い眉を寄せて顔を顰めた。
「体調に影響はないのか? その主張の激しいクマは……むしろ消えていたことはあるのか?」
「生まれた時しか覚えがねえ。が、問題はない」
「大アリだろう! いいか、普通の人間は一日の四分の一を睡眠にあてているんだ。平均寿命が八十年としたら二十年分だぞ」
「だったらなんだ」
相棒は、依頼人に重大な事実を告げる時のように、声を抑えて言った。
「お前は人より二十年、早く死ぬってことだよ」
リヴァイは、美術品返還訴訟を専門とする弁護士である。
何らかの事情(たいがいは荒っぽい事情だ)で持ち主の手を離れた美術品が、悪意と偶然と、ごく稀に“善意”によって他人の手に渡ることがある。しばしば国境も越えて。
この品を取り返さんとする元・持ち主が、リヴァイの依頼人だ。
外国政府を相手どるような大きな訴訟はほとんどない。だいたいは個人、企業、美術館、たまに自国の政府。
奪われた美術品を穏便に返還させて金をもらうのが、リヴァイの仕事だった。
町の中心に借りた事務所は、雇用人数に合わせたデスクと客用のソファを置けばもう空きもなく、内装も質素の一言につきるもの。一流弁護士の仕事場に劣らないものと言えば清潔さくらいだ。
この国の弁護士と言えば『資格を剥奪されたおかげで真人間になれたんだ!』なんてシャレがまかり通るほど嫌われた職業だったが、やっと生活できるだけの収入の代わりに「お宅のその不満、裁判にしちまおうぜ」なんて強引な営業もしないリヴァイは、この町ではわりと好意的に受け入れられている。
「ああそうだ、昨夜のラブコールの内容の報告を頼むよ。罵られながらもお前に取り次いだのは、実はこの俺なんだ」
「いつもどおりだ。『札束に興味はあるか?』。適当に絵の入手元を挙げてみたら勝手にボロ出しまくって終いだ」
リヴァイは傍らのラップトップPCのキーボードを弾き、接続部からUSBメモリを抜いて相棒に投げ渡した。
受け取った相棒は、それを閑静な田舎町の住所が書かれた封筒に入れ、宛名を確認して封をする。
「やれやれ。アイツら、最初は『なんにも知りません』って顔してたのに」
この業界に関して言えば、“善意”とはイコール無知だった。
『曰く付きの物』──盗品などだ──を知らずに手に入れてしまった人間の権利は、法律によって優先的に守られる。
本当に無知だったなら、の話だが。
「まったく……この仕事をしているとつくづく人が怖くなるな」
「どの口が言ってんだ? ああ、もう綴じていい。あとは依頼人からの連絡を待つだけだ」
机に散らばった書類を大雑把に(見えてきちんと並べているのだが)まとめた相棒は、背後の棚から掴み出した分厚いフォルダにそれらをファイリングする。
このご時世にアナログな、と驚かれる管理に見えるが、ここから情報を読みとるには、紙束に記された穴だらけの項目とPCに保存されたデータを独自の言語をもって照らし合わせなければならない。
リヴァイに一度視線を投げたうえで、相棒は大仰にフォルダを閉じる。
「一件落着」
鍵付きの棚に仕舞われたフォルダの背表紙で、『解決済』のシールが黄色く褪せていた。
**
「にしてもリヴァイ、今回は手を打つのが早かったな」
行きつけのダイニングでミートボールを頬張りながら、聞き取りづらい声で相棒が言った。
「相手の動きに合わせただけだ」
「それにしたって、俺は向こうの弁護士からのメールを朝刊より早く読めたんだぞ。おかげで優雅にランチを食えてるわけだが、お前よっぽどドヤしつけたんだな」
「さあな。相当寝ぼけてたようだ、覚えてねえ」
「不眠症だろ。ゴロツキ弁護士め」
今度はポテトにスプーンを埋め、相棒はニタリと笑う。
人間が笑うと普通は目が細まるものだが、向かいに座る男はいつも青い虹彩の目をかっ開いて笑う。ので、実のところリヴァイはその笑顔を少しだけ気持ち悪く思っていた。
相棒に話していないことのうち、重要な事項の一つだ。
「けど、取り返したあの絵。正直に言うと俺はどうも好きになれないね。なんだか味気なくて」
「……ブレスカの絵か」
「なんだって画面の半分以上が黄土色なんだ? 目を引くものといえば気味悪い子どもの顔だけだし。画家さまの考えることはワケがわからないな」
ブレスカ──空想世界をひたすら描き続けた、三世紀前の画家。
彼が複数のキャンバスに描いたその空想の世界は、すべて同じ『物語』から成ると言われている。
仮想現実派の始祖でもある彼は、絵一枚一枚を緻密に、重たく、凄惨に描きながらも、その根底に流れる『物語』を他人に紐解くことはけして……死ぬまでしなかった。
今回の依頼の絵は、背後に高く聳え立つ壁、手前に町と、そこで生活する人々を描いたものだ。
画面の大半を覆って空を狭める壁も、どうやら壁に囲まれて生活しているらしい人々も、ブレスカの絵に共通して使われるモチーフだ。
この絵の価値を高くしているのは、町の中を行き交う人の中で唯一、絵を見る人間に向かって視線を投げている一人の子どもだった。
なんの疑問もなく生きる人々の普遍の中にありながら、その子どもの眼は、己が吸う空気も、足をつける地面も、すべてを疑い憎んでいるような危うい鋭さを放っていた。
目蓋に像を残すほどのその眼光に、激しい怒りを呼び起こされる者もいるのだという。
「あの画家絡みの依頼、これで二件目だったよな。前は裸の巨人が人間を喰ってる絵だったろう? 神話と現実が入り混じってるようで、なんだか見てて不安になったよ」
「……殊勝なことを言いやがる」
壁と子どもの絵の持ち主は、とある老いた富豪だった。
一人で掃除をするには相当骨が折れるだろう屋敷の、枯れ細った身体には大きすぎるベッドの中で、思い出のあの絵を見ながらくたばりたいのだ、と。
その依頼にリヴァイが頷いたのは二週間前だ。
『さっき、連中が絵を届けに来たよ』
「そうか」
『アッカーマンさん、ありがとう』
月日と経験を重ねた者の話し方とは、どうしてこうも身体の奥に染み込むものなのか。出会い頭に"堅苦しいのは嫌いなんだ"と口調を改められたリヴァイは、返答もそこそこに老人の電話越しの言葉に耳を傾ける。
『古い友人が帰ってきた気分だ。現実の友人たちはもう、ほとんど墓石の下だからね』
「絵のためにも長生きするこったな」
『私もそれを願ってるよ。……そうだ、良い考えがある。私が死んだら、この絵は貴方に差し上げよう』
「オイオイ……もてなす場所なんざねえぞ」
『どこだっていいさ。便所でも地下室でも。だってアンタ、この絵が好きだろう?』
その問いに、リヴァイははっきりと答えられなかった。
“不眠症”について、リヴァイが相棒に……いや、両親にすら話していないことがある。
ソファに体を預け、瞬きで世界を区切る夜に、リヴァイはごく稀に夢を見ることがあった。それはきっと、十人に話せば十人が「悪夢だ」と顔を顰めるだろうもの。
リヴァイは空を跳んでいる。
飛ぶではなく、跳ぶ、だ。
自力で滑空しているわけではなく、重たい装置が生む力と、降り立った場所を蹴る渾身の力で、リヴァイはひたすら空中を、前に、後に、上に、下にと跳んでいる。
気忙しい跳躍には理由があった。
敵がいるのだ。
ブレスカの絵に描かれていた、あの裸の巨人だ。
かっぴらいた口にリヴァイなどはすっぽりと収まってしまうだろう、そんな大きさのデカブツ共がわらわらと地上を跋扈していて、リヴァイは奴らから逃げるどころか、よくしなる刃物を両手に、その項を──執拗に項を狙い続けている。
体は重たい。薙ぎはらう手や踏み出す足も、水の中を進むように遅い。
それでも、周囲の景色がさらに数テンポあとから付いてくるので、リヴァイは自分が『速さ』を持つ存在であるとわかっていた。
「リヴァイ」
誰かが、リヴァイを呼ぶ。
知己の声にも、未知の声にも聞こえるそれに振り向けば、巨人の握りこぶしの隙間から脚が一本だけ飛び出ている。風に吹かれたかのようにプラプラと揺れているのだ。
リヴァイが再び宙を舞う前に、握り拳が小さくなる。リヴァイを呼んだはずの“何か”が掌の中で弾けて、噴きあがった血液が空から降ってくる。
視界いっぱいの、赤──
「……!」
身を起こした拍子に揺れたミニテーブルからスマートフォンが滑り落ち、ディスプレイに夜明け前の時刻を示した。
拾い上げようとした指先から何からまでがぐっしょりと汗で濡れ、おまけに掌には深々と爪の跡が残っていたものだから、リヴァイが思わず漏らした舌打ちも疲れきった小さなものだった。
不眠症の原因は、“これ”だ。
ブレスカが重たい筆致で描いたまさにあの世界で、人食い巨人をひたすら弑虐する、そんな夢。
物心つく頃から見始めたそれを避けるために、リヴァイは深く眠ることを忘れてしまった。
最近では年に数度しか見ない程度だったというのに、どうしたことか、あの依頼を受けた日から夢は再びリヴァイの元に現れるようになっていた。
それも毎夜だ。
いつもの姿勢をとると強制的に“あの夢”に引きずり込まれてしまうので、ここ数日はソファに座ることすら避けて朝を迎えていたのだが、昨夜はさすがに限界を訴えた身体に負けてしまった。
帰宅するなり深々と腰をかけてしまったリヴァイに、夢は容赦してくれなかったらしい。
「ちっ……」
脱ぎ捨てたシャツの皺にまた一つ舌を打つと、リヴァイは着替えもそこそこに狭いキッチンで湯を沸かし始めた。戸棚から出したポットにティーバッグを放り込み、湯の準備ができたらそこに注ぐ。蒸らし時間は短めだ。
薄茶色の湯を安酒か何かのようにぐっと呷ると、香りだけはいっぱしの熱が胃に流れ落ちていく。相棒に「なんだか、それだけはどうもお前らしくないんだよな」と言われた、リヴァイ流の紅茶の淹れ方だ。
なり損ないの安っぽい味がどうしてこうもリヴァイを安心させるのか、昔から自分でも不思議だった。
子供の頃、夢に怯えて目が覚めた夜は、いつもキッチンでこっそり紅茶を飲んだ。起き出してきた母に夢のことを話しひどく心配させてしまった反省から、それ以降誰かに悪夢のことを明かすことはなくなった。
けれど、それでよかったのかもしれない。
──『古い友人が帰ってきた気分だ』
現実のリヴァイの年齢が夢の中の男に追いついたことも関係があるのだろうか。幼い時分には振り回されるばかりだった夢を、今なら少しだけ覚めた気持ちで、誰かの解釈や分析といった雑音もなく振り返ることができる。
それこそ、古い友人と過去を語り合うように。
リヴァイは窓際に寄り、深夜の街を眺めた。眼下で酔っ払いが一人、予測のつかない足さばきで通りを進んでいる。少しだけあの巨人どもを連想させた。
夢では、必ず人が死んだ。
胸糞悪いことに、とても呆気なく。
性別も顔も様々な誰かが、あの巨人に飲まれ、食われ、削られ、潰され、投げられ、蹴られ……そうして簡単に死んでいった。肉塊となったものに知り合いの顔が張り付いていなければそれだけで「今日はマシ」と思えるくらいだった。
どうやら超人的な力を有しているらしい夢の中のリヴァイは、けれどなぜかいつも、降り注ぐ血すら掌に受けることができない。
初めてブレスカの絵を──巨人が人間を食う絵を──目にした数年前、リヴァイの心中に落ちてきたのは悲しい共感、ただそれだけだった。
己が見る夢は脳が作り上げた欲求不満の象徴などではなく、どこかにある、またはあった世界なのだと。
何となくわかっていたからだ。
相棒が『味気ない』と評した子どもの絵を思い出す。あのそびえ立つ壁も町並みも、リヴァイの眠りの世界に現れることはあった。ただし、巨人に蹂躙された姿でだ。
『侵入者を防ぐ』という役割を放棄した壁に、およそ人が暮らせるだけの形を成していない家々、そしてやはり、次々と死んでいく人間。
子どもが怒りを溜めて踏みつける普遍など、リヴァイの夢にはそもそも登場したことがない。
あの絵をある種の憧憬を持って見てしまうのは、だからだろうか。
夢の中のリヴァイの心中を思い返してみても、そこは感情の湧く場所に分厚い氷でも張っているかのように静かで冷たい。何の色もなしに動く機械と同じだ。
ただただ、巨人を屠るだけ。屠って、“誰か”が死ぬのを目の当たりにするだけ。
だと言うのに、聞き取れるか否かの“誰か”の命乞いを、夢の中のリヴァイはいつだって律儀に拾い上げていた。耳に届けばすぐさま意識を向け、顔を向け、その姿の一部を目にうつすのだ。
宙に踏み出す直前だろうが、直後だろうが。結局は助けられないと、うんざりするほどわかっていようが。
──なんのために?
リヴァイはそれが知りたかった。
なんのために、リヴァイは敵を屠り、また死にゆく人間の声を掬おうとする夢を見るのだろう。
聴こえたそばから消えていく声を耳の奥で反芻し、もがき苦しむ手足を食い入るように見つめ、何かを、誰かを判別しようと──
(……"誰か"?)
視界に声の主が入り込む瞬間の、ほんのわずかな間を何度も思い返しながら、リヴァイは違和感に気づいた。
夢の男の胸中に、何かざらついたものが巻き上るのを感じたのだ。
いくつかの感情の切れ端が混じり合って、不意に漏れ出たような。
焦り。諦め。それから
(──期待?)
『 おやすみ、ゆっくり眠れ 』
リヴァイが違和の切れ端をその手に掴もうとしたまさにその時、大きな声が思考を切り裂いた。
未だ通りで管を巻いていた酔っ払いが、どうやらコンサートをはじめたようだ。彼は足どりに比べれば外れのない調子で、濁った音で歌を紡いでいく。
『 おやすみ 』
『 ゆっくり眠れ 』
『 どうか素敵な夢を見ておくれ 』
『 俺のために 』
彼が通り過ぎた家の窓が開き、中から初老の男が顔を出した。
「何がおやすみだ、この酔いどれ馬鹿野郎! もう朝なんだよ!」
窓越しに上を見れば、確かに東の空が白んでいく最中だった。
朝日に染まっていく町は罵声の投げ合いすらも包み込み、ひとときだけ清涼な姿になる。そして建物の輪郭がはっきりするにつれ、結局はそれも幻だったと思えるまでに身を落とすのだ。
リヴァイは小さくため息をつくと、窓に背を向けてシャワールームへと足を進めた。
**
「面白い話を聞いたんだが」
「お前のそのフレーズから始まる依頼はだいたい厄介だった」
「仕事の話じゃないんだよ」
デリバリーの中華料理をかきこみながら、相棒が声を荒げた。リヴァイが飛んできたライス麺の欠片に盛大に顔を歪めてみせるも、返ってくるのは「すまんすまん」というおざなりな謝罪だ。
「てめえ……訴えるぞ」
「弁護は任せる。それより聞けよ、お前の不眠症のことだ」
「ああ?」
「なんでも隣町の酒場に、眠れない奴の治療をしてくれる男がいるらしいんだ。これが効果てきめんだそうでな」
「情報源は?」
「俺のボードゲーム仲間のご老人だよ」
「……この間『飲んだくれのホラ吹きジジイ』と罵ってた爺さんか?」
相棒はスープの一気飲みで聞いちゃいない。リヴァイはこれ見よがしにため息をつく。
「なんで酒飲む場で医者が診療所ひらいてんだ?」
「医者じゃない、バーテンダーだ」
「怪しさが増した。この話はナシだ」
「リヴァイ、いつも言っているだろう。酒場で名が知られてる人間は信用していい。俺の妻もバーで評判の美人だった……」
デレつく顔を横目に昼食を済ませ、リヴァイは机に向き直る。会話の終わりを示したつもりだったが、相棒は構わず話を続けている。
「彼に会え。金は取らないそうだし、俺の勘はよく当たるってお前も知ってるだろう?」
表立った交渉を全面的に任せているだけあって、相棒は口の上手い奴だった。技術云々はよくわからないが、『相手に信じさせるにはまず自分が心から信じること』を信条に、その場にいる全員に暗示をかけて飲み込んでしまう。そういう能力を持っていた。
そして相棒が自身で言うとおり、確かにその勘はよく当たる。
今まで彼が『面白い話』として持ってきた依頼はすべて、厄介で、体力気力を大量に奪われ、その代わりに良い人脈と大金を得るものばかりだった。
「……気が向いたらな」
「つまり行くってことだな」
ほっと緩む肩が反論する気を削いでしまう。近々リヴァイが、"噂のバーテンダー"の元を訪れることが決定した瞬間だった。
「よかったよ、リヴァイ。俺はお前に長生きしてほしいんだ」
「てめえは自分の心配をしろ、エルヴィン。最近食いすぎだ」
相棒はやっぱり聞いちゃいなかった。