Stuffed xxx toy …パラレル/デカ猫ぬいぐるみ(付いてる)と拗らせた二人の話
Stuffed xxx toy …パラレル/デカ猫ぬいぐるみ(付いてる)と拗らせた二人の話
見落とし、確認不足、注意力欠如。
感情の高ぶりや睡眠不十分など、精神や肉体が正常でない状態のときに起こりがちなヒューマン・エラー。
得てして大なり小なりの痛みを負い、教訓を刻む結果になるそれ。
「やってしまった……!」
連勤デッドレース中に目に入ったバナー広告をタップし、直感で購入した大型商品。手元に届くまですっかりその存在を忘れていたハンジは、「高くはないがまた微妙に場所をとるものを買ってしまった」という小さな後悔と共にそれを開封し、失神しそうなほど仰天し、そしてはっきりと思い出した。あの時の自分が、どうして〝これ〟に惹かれてしまったのかを。
全長約80センチ。黒猫が四本の足を後方に流してうつ伏せに寝そべっている姿の、大きなぬいぐるみ。
巷にあふれる可愛らしい猫のキャラクターからは程遠い、重たそうな瞼の三白眼に笑みもなく、何かに例えるのも難しい色の瞳をどこに向けるでもなく正面に据えた、愛想のない顔貌。
「……リヴァイそっくりじゃないか」
そのぬいぐるみは、ハンジの同僚であり長年淡い想いを抱く相手――リヴァイ・アッカーマンをデフォルメしたような見た目だったのだ。
それだけなら笑い話で済んでいただろう。
手にした説明書を見下ろし、また巨大・シミラートゥーリヴァイ・黒猫・ぬいぐるみに視線を戻したハンジは、彼が胴体につけている白い腹巻のようなものに手を伸ばした。分厚い布ごと、ふわふわと柔らかくも弾力のある体をつかんでうつ伏せからひっくり返す。おそるおそる腹巻をめくり、四角い収納部を目にして天を仰いだ。
なんってことだ――。
黒猫の商品名は、『ディルド付きぬいぐるみ(大)』だったのだ。
「で?」
「……うん、ものすごく朦朧としている時に、誤って買ってしまって……」
事故のような購入から二ヶ月。家から外に出さず、購入したことも誰かに喋りさえしなければこのケッタイなぬいぐるみの存在が明るみに出るようなこともないだろうと踏んでいたハンジは、まんまとその甘さを打ち砕かれていた。しかも、よりによってリヴァイに。
「……お前まさか、これを見せるために酔ったふりして俺を部屋に連れ込んだのか?」
「ちっ、違う違う! そんなわけッ」
「声を落とせ。夜中だぞ」
床の上で縮こまる部屋主のハンジに、客人、というか酒に酔ったハンジを介抱しながら連れ帰ったリヴァイがベッドの上から冷めた視線を投げる。二人のあいだには、腹からあられもないものを出した巨大なぬいぐるみが仰向けで転がっていた。
ハンジはわからなかった。どうしてコレがモロ出しでベッドの上にあって、リヴァイに発見されるに至ったのか。今朝は慌てて家を出たから巨ぬいの状態もまともに確認しなかったし。飲み会にリヴァイが顔を出すなんて予想していなかったし。自分がそれほど酔うとも思わなかったし、まさかリヴァイが家の中まで付き添ってくれるとも思っていなかったし。
まあ、体内のアルコール分も彼の温情もディルド付きぬいぐるみの前に散ってしまったわけだが。
「で?」
「え?」
先ほどとまったく同じ調子で問われ、ハンジは途方に暮れながら顔を上げた。そこには相変わらず絶対零度の瞳がある。
「使ったのか」
リヴァイが足を動かし、これ、とぬいぐるみの横っ腹をつつく。
彼にそれなりに愛着が湧いていたハンジは、冷や汗をかきながらその体を引き寄せた。
「つ、使うわけないじゃん……間違って買ったんだし」
「嘘だな」
「ぅえっ⁉」
「誤って買ったにせよ、好奇心に口が生えたみてぇなお前が試さずに済むわけがねぇ。そもそも頭っから使うつもりがないなら返品すればいい話だ」
「それは、普通のぬいぐるみとして置いとくならって、」
「〝普通のぬいぐるみ〟として置いとくのに、ブツを出す必要はあるのか?」
「……!」
騙せるわけがないとはどこかで思っていた。けれど、リヴァイならあえて騙されてくれるはずだとも思っていた。掃除については例外だが、普段の彼は他人の私生活にズケズケと口を出したりはしないのだ。
——まさか。
このぬいぐるみが自分に似ていると気づいたのか。
胸に挿した嫌な予感に、ス、と血の気が引く。
この際変な道具を使って欲を晴らす女だと思われても構わない。けれど、その変な道具とリヴァイの繋がりだけはなんとしても否定しなければ。ハンジの気持ちが悟られるようなことは、あってはならない。ぬいぐるみに自身を投影されて慰みものとして使われていただなんて、彼の尊厳を著しく傷つける行為だ。ハンジは即座に判断した。
「っそうだよ使ったよ? せっかくだしどんな感じか試してみたくてさ、せいぜい二、三回だけど。まあまあだったかな。で、それが何?」
「やってみろよ、今」
「は?」
「跨がれって言ってんだ。〝いつも〟やってるみたいにな」
互いのあいだに高い壁を設くような眼光、声、言葉。
バレてる。ハンジはやはり、すぐに悟ってしまった。
初めて感じる圧だった。リヴァイは口と手こそ乱暴を見せるときもあったが、その目とハンジを導くやり方はいつだって優しかった。他人と比べて甘さを感じる瞬間さえあった。なのに。
深い絶望と後悔に軽く眩暈を覚えたところで、「さっさとしろ」と追い打ちがかかる。「選べ」じゃない。「やれ」と言っている。それがお前の罰だ、と裏に張り付けられている気がして、頭から抵抗の意思が消えていく。
最後まで従って、惨めな姿を散々晒せば許してくれるだろうか。
ハンジは力なく立ち上がっていた。
風呂場で洗った陰部に指を這わせ、ベッドに寝かせた黒猫を前に、必死で中を濡らしていく。背中にはリヴァイの視線が刺さっている。彼は座った位置から一切動いてない。ハンジだけが準備に右往左往し、これから一人で腰を振り、達して見せなければならない。
「ん、ん……」
空気を読んでどこかに滞留していたのか、消えたと思っていたアルコールがまた全身に回り始めた。体温が上がり、息が乱れ、指を差し込んだ中もぽってりと熱く腫れていく。まもなく染み出した分泌液にこんな状況でも濡れるんだと驚きつつ、ハンジは黒猫に跨った。
「入ってるところ見せろ」との命令に叩かれ、体を倒して前傾になる。くっと持ち上がった尻により、穴という穴が後方のリヴァイに晒される。恥ずかしさで死にそうだった。スキンを装着したディルドに手を添え、先端を膣口に馴染ませると、ハンジはゆっくり腰を下げていった。
「っ……ふ、ぅ」
ディルドは標準よりも少し小さめのサイズに作られており、最低限突起を均した表面やシリコンの弾力もあって、当初はぎこちなかったハンジの中にもすんなり馴染んだ。
成功体験は勇気を乗算する。ハンジはそれから何度も彼に跨って、イイところを探り当てて、——物言わぬ猫の顔に、リヴァイを見た。
体は学んだことに沿おうとする。半分ほど埋まったところで入口がきゅっと締まり、先へ先へと飲み込む意思を見せ始めた。いつもはここでギリギリまで引いて、それから一気に腰を落とすのだ。酩酊を呼び戻したハンジの理性は、深く考えずにそれを再現した。ずるん、と物が抜ける直前まで腰をそらし、次の瞬間、尻を振って黒猫に打ち付ける。ふわふわの体はそれを柔らかく受け止めて、ハンジの好きな場所を痛みもなく抉った。
「っぁん!」
声と一緒に快感が抜ける。脳内に響いた甘さをきっかけにして箍が一輪外れたのか、ハンジはそのまま、あられもなく腰を揺らしだした。
「許可が出るまでイくなよ」
没頭しかけるタイミングを正確に測ったように後ろから声がかかり、狭いベッドの一部に、ギ、と体重がかかる。リヴァイが位置を変えたのだ。ハンジのすぐ後ろに。覗き込める場所に。
ひたすら恥辱を覚えるはずの一連に、けれどハンジの理性はふわふわとおぼつかない。見られている。リヴァイに。子どものような下ネタは好んで使うくせに性的なことは一切匂わせず、ひたすら汚れを嫌って、清廉潔白に過ごしているような男が。ハンジの痴態を、まじまじと見ているのだ。都合よく認識を転換させた脳が、腹の奥底に絶頂の鍵を送る。きゅん、と中が締まって、ハンジは我慢できずに腰を振り立てた。
「あっ、ぁ、あ」
抜かして入れて、腹側の一帯を擦るの繰り返し。同じ速度と動きでも熱はどんどん高まって、は、は、と息が荒くなった。ぬいぐるみをあいだに挟んだ律動が、キ、キ、とかすかにベッドを軋ませ、ぬちぬち響くものと混じりあう。セックスの音だと、耳が勘違いする。ハンジはいつのまにか肘をつき、黒猫に覆い被さっていた。柔らかな質感に口を埋め、声と湿った吐息を吹き込む。
「んっ、っふぁ、ぁ」
あ、だめ、イく。いつもより早く見えた到達に、ハンジの体が選択したのは「待て」だった。ディルドが抜けるのも構わず尻を高く上げ、動きを止める。遠ざけられた絶頂を悲しんで全身がプルプルと震えたが、命令だから仕方がない。リヴァイの許可が出るまで、イッてはダメ——
「ひぁんっ!」
突然だった。尻の丸みに痛みを覚えるほどの力がかかり、掴まれたのか、と気づいた時には中を割り開かれていた。ディルドの感触とは全く違う、もっと弾力があって、なのに芯は硬くて、焼けそうなほど熱い。
「っは、え……?」
尻に留まっていた力と熱が腰のくびれにかかり、尾骶骨を撫で、着たままだったシャツの裾を捲りながら上まで登ってくる。うなじに巻き付いたのはまごうことなき人の、リヴァイの手だった。
「り、っ!」
中にはまった異物が、自身を馴染ませるように行き来し始める。衝撃に固まっていた膣壁は我が物顔の動きに引きずられて、あるいは持ち主が抱くどうしようもない情に絆されて、すぐにやわやわとほぐれていく。
「は、キツイが……よさそうだな、ハンジ」
「りば、い……なん、でぇ……?」
なんで、君が入れてるの。見せろって言ったのに。詰めるべき状況は、それを上回る「気持ちいい」にかき消される。
「んあ、はぁ、っあー…!」
本当に、信じられないくらい気持ちが良かった。ハンジがディルドを使って懸命に擦っていた場所も、張り出した先端と段差でゴリゴリと削られて、その刺激が入口から奥までの道程で休みなく続く。
早くも激しくもないのに、脳が掻き回されるほどの、辛くさえある良さ。ハンジは黒猫に爪を立て、リヴァイから与えられる全てに陶酔した。
そのうち抽送は肌を打ちつける強さになり、ガクガクと揺さぶられて、生まれた快感をいちいち処理する暇もなくなっていく。膣がぎゅーと長めの締め付けを見せるようになったところで、リヴァイはハンジを黒猫に押しつけ、足を伸ばさせてまたゆっくりと攻め始めた。
背後からのしかかる肉体は重たく密で、なのにハンジを潰しきることはせず、繋がった下半身だけを逃すまいと固定してひたすら中をこねまわす。がむしゃらに自分の欲を満たそうとしていない、どちらかといえばハンジを追い詰めようという動きだ。こんなものに死角を取られて、抜け出せる人間なんているのだろうか?
「あ……っ、はぁ、〜〜っあ……」
「声が変わってきたな」
「っひ、ん……」
耳の裏で低まった声に囁かれ、ぞくん、と背筋が震えた。有無を言わさぬ手が黒猫とハンジのあいだにねじ込まれ、半端に捲れていたシャツとブラトップを首まで引き上げる。胸にも甚振りが始まって涙が出た。
「んや、っぁ、あ……」
「オイ、ハンジ。生身のチンポの感触はどうだ」
「っえ……?」
ぴったりと肌を張りつけあった、声が肉に響いてくるような状態で、さらにリヴァイを意識しろと言われている気になる。
「作り物なんかより、ずっとイイんじゃねぇか」
「そんな、の……」
当たり前だ、なんて言えるわけがない。淫乱を気取るほどの手際は見せられなかったし、かと言って、生身なら誰でもイイわけじゃない。
「は、あん!」
ぐちん、と深く抉られ、ぶるぶると揺らされた。思考があっというまに散る。
「あ゛っ、ぅー…!」
「ずいぶん腰ヘコらせて……布の塊相手よりよっぽど反応しているようだが」
「っだ、だってぇ……!」
「俺なら、好きなだけお前のイイところ突いてこねて、擦ってやれるぞ」
「あ、らめ、っそこ」
「舐めたり吸ったり噛んだりだって……できる」
後頭部に口を埋められ、直接吹き込まれるように囁かれる。ぞくぞくと広がる鳥肌に、頭皮も性感帯になるんだ、などと知見を得ている場合ではない。リヴァイ、今なんて言った?
「……〝俺、なら〟……?」
懸命に顔を傾け、肩越しにリヴァイを捉える。りばい、と回らない口で呼ぶと、応えて覗き込んでくる。ずれた眼鏡のあいだからも、その表情はやすやすと読み取れた。先ほどと打って変わって熱い色の瞳が、懇願さえ見える必死さでハンジを映している。
「なぁ、そいつはお役御免でいいだろう……こうやって、」
「っん゛ん⁉」
「俺のほうが、上手くお前を、鳴かせられる……」
ぎゅ、と一際強く押し込まれて、中とは別に、ほったらかしになっていたディルドがハンジの腹にめり込んだ。そのままぐりぐりと動かされると前後から攻められているような錯覚に陥る。
「な? そいつは捨てていいな?」
「えっ! だ、だめ、っ……!」
だって、これもリヴァイなのに。
時を問わずそばにいて、寂しい時に抱きしめさせてくれて、欲の相手までしてくれた。身代わりとはいえ大事な存在だ。
「だめ……りばい」
「なんだっ?」
「りばい、りば、っい……」
呆然と繰り返し、黒猫を抱きしめる。そうやって独りの夜を過ごしてきたから。
「こっち向け」
けれど今夜は違う。ハンジを留めるために埋まっていた杭がなくなり、気が抜けたのも一瞬。肩を掴まれ仰向けに反転させられる。
再び入り込んできたものは違う角度で中を蹂躙し、やはり、あっというまに地位を得てしまった。天井になったリヴァイが恐ろしいほど光る眼でハンジを見下ろし、力の入らない手を接合部まで導く。
「しっかり確かめろ。今お前の穴にハマってんのはなんだ? あ?」
指を這わせると、広がった陰唇からひとつなぎのように固い幹が生えていた。実際は逆なのに、ハンジの中から命を吸ってリヴァイに力を漲らせていくような気がする。
そう。生身の、生きたリヴァイの力になるのだ。
ハンジは指先から意識を移し、自らを囲む巨大な存在を見上げた。強い欲望を宿して爛々と輝く、二つの色を。そしてうっとりと呟く。
「うん、……〝本物の〟……リヴァイだ……」
重たそうな瞼が、は、と持ち上がったのは少しのあいだだけだった。逆光で暗い顔が像もなくなるほど近づき、唇を塞がれる。とうとう口の中も侵したリヴァイは、それでも満足しなかったのか、傍らのふわふわと心地よい感触に縋ろうとするハンジを一晩中攻めながら、どうにも譲れないらしい主張を唱え続けた。
「そいつは捨てろ」「いいな?」「いいと言え」
「抱きしめるんなら俺にしろ、ハンジ」
〈了〉
(初出 24/04/09)